発酵食品が健康によいといわれて久しいですね。
日本には、伝統的な発酵食品がいくつもあります。たとえば、醤油、味噌、納豆などの大豆発酵食品は、庶民の常食として広く愛されてきました。
大豆発酵食品は、日本以外のアジア各国にも存在します。たとえば、ネパールのキネマ、タイのトァナウなどは、アジア納豆などと呼ばれ、現地の庶民の民族的常食になっています。
この記事でご紹介するテンペは、インドネシアのジャワ島に起源をもつ大豆発酵食品です。400年以上の歴史があり、良質なタンパク質を含むため、インドネシア庶民の日常的な食べ物として愛されています。日本では「インドネシア納豆」と俗称されますが、納豆とは味もにおいも栄養価も違います。
テンペとは
インドネシアのテンペと日本の納豆は、原材料が大豆という点は同じですが、発酵に用いる菌が違います。
納豆を発酵させるのは納豆菌です。稲のわらに付着している細菌(枯草菌)です。
対して、テンペを発酵させる「テンペ菌」は、カビの一種です(正式名称:Rhizopus Oligosporus)。カビと言っても、心配いりません。インドネシアのハイビスカスやバナナの葉に住む特殊なカビです。
顕微鏡で見たときの形が蜘蛛の巣に似ているため、「クモノスカビ」とも俗称されます。
このテンペ菌が、茹でた大豆を約24時間で無塩発酵させ、テンペにするのです。
テンペは匂いが少なく食べやすい
テンペは発酵食品です。発酵食品というと強烈な匂いやクセのある味を想像しがちがですが、テンペに関しては、その先入観はあたっていません。
テンペ菌は納豆菌ほどタンパク質を分解する作用が強くないため、納豆のような強烈な匂いは出ません。ほぼ無臭と言ってよいです。鼻先を近づけるとかすかに酸味のある匂いを感じる程度です。
また、納豆のような糸も引きません。
テンペはクセのない、さっぱり味
テンペの味は淡白で、クセがありません。普通の水煮大豆の味とあまりかわりません。したがって、どんな味付けも可能な便利な食材と言えます。代替肉として利用するにも適しています。
テンペは無塩の食材
テンペは、製造過程で塩分を加えません。水煮の大豆をそのまま発酵させるだけです。このため、味噌や醤油のような塩分過多の心配がありません。塩分のとりすぎによる高血圧を心配せずに食べられます。
テンペはコレステロールゼロ
テンペにはコレステロールが含まれません。肉や鶏卵は良質なタンパク源ですが、食べ過ぎれば脂質やコレステロールが心配です。この点、テンペならば、豊富なタンパク質を、コレステロールの心配なく摂取できます。
わたしがよくスーパーで購入する生テンペの外箱には、「塩分、コレステロール ゼロ」と明記してあります。
テンペはアメリカで大人気
インドネシアのローカル食であったテンペは、日本よりも先にアメリカで人気を獲得しました。アメリカでは、別名Soy cake(大豆ケーキ)とも呼ばれます。
アメリカには、多くの「ベジタリアン」がいます。ベジタリアンにとって、タンパク質をどうやって摂るかは大きな課題です。人間の大人は1日あたり約60gのタンパク質を必要とします。
肉や魚を食べれば1日60gの基準は簡単にクリアできますが、ベジタリアンにとっては、1日60gは意外に高いハードルです。このため、植物性タンパク質を効率的に摂取できる食品として、テンペはアメリカで人気が出ました。
テンペは納豆のような匂いやネバネバがないので、欧米人でも違和感なく食べられるのです。肉の代替食品として便利に使われているようです。
テンペの健康・美容効果
テンペの栄養
テンペは栄養豊富な食物です。
タンパク質・必須アミノ酸
大豆がテンペ菌によって発酵すると、必須アミノ酸が増えることがわかっています。発酵食品なので消化もよく、効率的に良質な植物性蛋白を摂取することができます。
イソフラボン
大豆に含まれる大豆イソフラボンは、女性ホルモン(エストロゲン)に類似する作用があるため、更年期障害のトラブルを緩和する作用があると言われます。
発酵食品であるテンペでは、大豆由来のイソフラボンはテンペ菌の作用によって体に吸収されやすい形に変化します。単に大豆を煮たり蒸したりしただけよりも、効率よくイソフラボンを摂取できます。
ビタミンB類
発酵によってビタミンBが増えるため、コレステロールを下げる作用や、老化を防止する抗酸化作用が期待できます。
特に、糖質や脂質の代謝に必要なナイアシンは、もとの大豆の約5倍に増加するので、ダイエットにも役立ちます。
ミネラル
カルシウム、カリウム、鉄などのミネラルが豊富です。また、精神安定に資する抑制神経伝達物質(GABA γアミノ酪酸)も豊富です。
レシチン
大豆由来のレシチンは、動物由来のレシチンとは異なり、コレステロールを含みません。悪玉コレステロールの排出を助け、コレステロール値を正常に保つ作用があります。
またレシチンは、脳細胞を活性化させる作用があるため、認知症防止にも役立ちます。さらに体の免疫力を高める作用もあります。
大豆サポニン
テンペに含まれる大豆サポニンは、腸での脂肪の吸収を抑制する作用があるため、ダイエットに役立ちます。
食物繊維
テンペには大豆由来の食物繊維が豊富に含まれます。食物繊維は腸内細菌のバランスを整え、便通をよくするなどの効果が期待できます。
テンペの健康効果
このような成分の働きによって、各種の健康効果が期待できるといわれます。
- コレステロール値
- 血栓防止・血液サラサラ
- 動脈硬化の防止
- 高血圧防止
- 貧血防止
- 骨粗鬆症
- 更年期障害の各種症状
テンペのダイエット効果
テンペの健康効果によって血液がサラサラになり、新陳代謝が促進されると、脂肪がつきにくい、つまり太りにくい体質になります。また、大豆由来のサポニンは、小腸の内壁を整え、余分な脂肪や糖分の吸収を抑制する作用があります。
また、大豆由来のタンパク質・必須アミノ酸(バリン、リジン、ロイシンなど)は、脂肪の燃焼効率を高めるため、ダイエットに役立つと言われます。
また、そもそも、テンペは肉類に比べて低カロリー・低脂質であるため、それ自体がダイエット食でもあります。
テンペの食べ方
テンペは長持ちする – テンペの賞味期限
テンペは、活性酸素を排除する酵素を高濃度で含んでいます。このためテンペは酸化が遅く、ビタミンやタンパク質などが変質しにくいため、長期保存に向いています。
また、テンペ菌が雑菌よりも多量に存在すれば、雑菌の繁殖をおさえる作用が働くため、腐敗しにくいのも特徴です。
買ってきたテンペを冷凍しておけば、通常、1ヶ月程度は保存できます。冷蔵なら数日が目安です。加工食品であるテンペのパッケージには賞味期限が明記されています。
真空パックの製品ならば、さらに長期保存が可能なので、通販で安くまとめ買いすることも可能です。
テンペは生で食べてよいのか
インドネシアでは、テンペを生で食べることはありません。普通は、油であげて食べます。衛生上の理由によるものです。製造過程で雑菌の繁殖が防ぎきれないため、加熱して食べることが一般的なのです。
いっぽう、日本では、テンペを生のままスライスし、わさび醤油で食べる、なんていう食べ方が、料理本でも堂々と紹介されています。
あるいは、表面を軽く炙って、香ばしさを楽しみつつ、内部は生の大豆の味わいを楽しむ、という食べ方も、日本では一般的です。
日本でテンペの生食が一般的な理由は、衛生管理能力が高いからです。スーパーから買ってきたままの生の鶏卵を食べても食中毒にならないのと同様に、日本ではテンペも生食が可能です。
ちなみに、生とは言っても、大豆を発酵させる前にいったん煮るので、本当の意味での生ではありません。テンペとして完成してからは加熱していない、という意味での「生のテンペ」です。
はじめてテンペを食べるなら
はじめてテンペを食べるなら、せっかくなので、素材の味がわかる食べ方をおすすめします。
生のテンペを包丁でスライスするだけで、手軽につまめるスナックになります。ちょうどチーズのように、スッと包丁が入ります。
生のテンペは、ほんのり大豆の風味がする、淡白な味わいです。
テンペのさしみ
わたしは、同じ大豆食品である醤油と組み合わせて、わさび醤油で食べたりもします。
お酒のつまみにもよくあいます。
テンペの素焼き
テンペは油と相性がよいので、素揚げやソテーにすると美味しいです。料理本で紹介されているレシピも、油を使った料理が多いです。
ただ、油を使えば、当然ながらカロリーは高くなります。ダイエット中の人なら、油を使わない素焼きをおすすめします。
表面が少しカリッとする程度にあぶってあげると、香ばしくて美味しいです。
こうしてみると、わたしはテンペをおもにおやつとして楽しんでいるわけですね。もちろん、テンペは本格的な料理の食材としても重宝します。ネット上にもレシピが沢山紹介されていますし、テンペ料理の本も販売されています。
ダイエット目的でテンペを使うなら、基本的には肉類の代替食品として利用する方が多いようです。
国産テンペを安いときに購入する
テンペは、冷凍、フリーズドライ、真空パック、チルド、レトルトパックなど、様々な形態で流通しています。
真空パックの製品は長期保存が効くので、通販で安いときにまとめ買いできます。現在、日本のAmazonでは、2種類のテンペが販売されています。
(参考文献)
- 大豆の機能と科学 朝倉書店
- テンペのおいしいレシピ 法研
- 血液サラサラの最終兵器テンペが効く! 匂わない!粘らない!夢のような「納豆」がやってきた 主婦の友社